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前橋家庭裁判所高崎支部 昭和59年(少)1226号 決定

少年 H・T(昭四四・二・一生)

主文

この事件を群馬県高崎児童相談所長に送致する。

少年に対し、昭和六〇年六月三〇日までの間に、通算して六〇日間を限度として、強制的措置をとることができる。

理由

(本件申請の要旨)

少年は、昭和五八年四月一四日、教護院群馬学院に入院後、同年一〇月から昭和五九年四月までの間に、(1)食事の際に、他の児童に対し、自己の好物を提供させ、これに応じない者には残飯や油をかけた御飯を食べるように強要し、(2)深夜、自ら又は他の児童をして、弱い者に対してリンチを加え、(3)深夜に、他の児童にタバコを買つてこさせ、これを喫煙し、(4)同じく深夜、同学院の女子寮に忍び込んで、入院中の女児と性行為を繰り返し、以上のような行為を重ねた結果、二度にわたる児童相談所の一時保護措置によつて厳重な注意指導を受けたものの、その後も上記と同種の行為や深夜の無断外出、車上荒らしなどの窃盗非行を繰り返しており、少年には反省向上の態度が見られず、開放的な教護院における教護指導はもはや困難な状況にあるので、少年に対し、強制的措置をとることの許可を求める。

(当裁判所の判断)

少年は、昭和四四年二月一日生の中学三年生(小学生時に一年間の就学猶予あり)であるが、生後僅か二〇日位で実母と生別し、満二歳のころから今日まで、僅かの期間を除き、養護施設や教護院で生育してきており、昭和五八年四月一四日、救護院群馬学院に二度目の入院をしてからは、上記申請の趣旨記載のとおりの非行を継続しているものである。

少年は小学一年生のころから喫煙を始め、現在ではそれが習癖化しており、また、小学生のころから万引等の窃盗非行も断続的に見られ、更に、小学六年生の時に初めて性交体験を持つて以来、わいせつ行為や性行為が繰り返されており、異性への関心は極めて強く、その非行傾向は根深いものがある。このように少年は現在でも問題行動を続発させており、しかも教護院の職員の目の届きにくい深夜に非行を行うことが多いうえに、無断外出をも繰り返しており、同学院での度重なる注意指導にもかかわらず、真摯な反省の様子が乏しいことなどに照らすと、今後も同種非行を繰り返すおそれは極めて高いものと認められ、また、少年の行動が同学院内の他の生徒に与える影響にも無視しがたいものがある。

少年の知能は準普通域にあり、基本的学力は一応身についており、判断能力もあるが、父母の愛情に恵まれない不遇な生育歴のため、劣等感が強く、また、情緒の発達が阻害され、共感性に乏しく、対人不信感も強く、基本的な生活習慣も形成されておらず、規範意識も内面化されていない状況にある。なお、母親等肉親の愛情を求める気持は強く、普通の家庭に対する憧れも人一倍もつている。

少年の家庭環境については、前記のように母親は生別しており、父親は服役を繰り返し、現在も受刑中であり、これまで少年を顧みることなく、異なる女性と次々と同棲し、少年が小学一年生のころその眼前で性行為や覚せい剤の使用をするなどして少年に悪影響を与えており、残る肉親の祖母は高齢であり、他人の世話になつて自分の生活に追われている状況にあり、他に適当な社会資源は見出しえない。

以上によれば、少年を開放的な教護院で処遇することは限界に達しているというべきであり、教育上の必要に応じて強制的措置をとりうる施設において、安定した状況の下で人間的成長を図ることが必要であると認められ、本件強制的措置許可申請はこれを許可するのが適当であるが、少年については、非行性が相当進んでいる面が見られることと共に、現在満一五歳一〇か月の年齢で、前記のように一年間の就学猶予によつて中学三年生であり、昭和六〇年三月に中学卒業の時期を迎えること、これまで家族のよりどころがなく、自己の目標を見出すことのできない施設生活を長期間にわたつて続けてきていることなどの諸点にかんがみると、少年に対して今後いかなる途を歩ませるのが適当であるかについては、中学卒業を迎えた段階で、少年の自覚反省の程度や国立教護院での指導の成果をも踏まえ、比較的早い時期においてもう一度検討する機会をもつことが必要かつ有益であると思料されるので、強制的措置をとりうる期間としては、約半年後の昭和六〇年六月三〇日までの間に六〇日間を限度とするにとどめることとする。

よつて、少年法二三条一項、一八条二項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 今泉秀和)

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